民法762条1項は、婚姻中に夫婦の一方が自己名義で取得した財産は、その名義人の単独所有になると規定しています。これは、夫婦別産制の原則を定めたものと理解されています。

 財産分与を考えるにあたり、夫婦別産制を貫こうとすると、名義人ではない方は、如何にその取得に貢献していたとしても、当該財産に対して何の権利も有していないことになりますから、その不都合を修正することを目的として、離婚時に清算的な財産分与を行うことになるものと理解します。
 しかし、それでは非名義人側の保護に欠けるのではないか、と考えることもできます。
 その場合には、非名義人においても当該財産に対して潜在的な持分を有していて、それが離婚時に顕在化するからこそ財産分与を行うことになるのだ、とか、あるいは、非名義人と雖も婚姻中から当該財産に対する実質的共有持分を有しており、財産分与は、当該持分に基づいて分与を行うものであると考えたりします。

 では、財産分与において、名義人が名義通りに不動産を取得することになった場合はどうなるでしょうか。
 夫婦別産制を貫く場合は、当初から完全な所有者である以上は権利変動を観念できないので、「分与」であるとは言い難く、権利変動に対応した給付しか発令できないとすると、給付命令を出しにくくなるでしょう。本件の原審である高裁がかような考え方を採ったようです。

一方、非名義人の持分を認める考え方では、名義人は、非名義人の持分について分与を受けるものと捉えて権利変動を観念し易くなるので、「分与」があるものとして、給付命令を発令し易くなりましょう。

 ただこれらの関係は、あくまで親和性があるという程度のものであり、夫婦財産性における考え方と給付命令の可否については論理必然の関係にはないとも考えられます。

 すなわち、その可否について、夫婦財産性における考え方に立ち入ることなく、当該命令制度の趣旨から判断するというアプローチが可能です。

 財産分与の審判の後、その内容に沿った権利関係を実現するために改めて給付を求める訴えを提起しなければならないとしたらどうでしょうか。そのような迂遠な手続が必要となるならば、審判の実効性は損なわれると言えるでしょう。給付命令の制度は、そのようなことを回避するために設けられているものです。
 そうだとすれば、審判において命じられた権利変動そのものに直接対応している内容に、給付命令を限定する必要はないこととなります。
 それゆえ、名義に変動のない財産分与であっても、給付命令の対象とすることが可能であり、本件のような事案であれば、明渡命令を発令することができるということとなります。
 最高裁は、そのように判断しており、妥当であると思われます。