アプローチ6に引き続き、準拠法それ自体についての認定と、認定後の準拠法下における要件判断を具体的に示した判例を紹介します。

 養子縁組に関する事例です。

 通則法31条1項ー縁組の当時における養親となるべきの本国法を準拠法とする(実質的成立要件)。
         ー養子の保護のための同意、許可等の要件(保護要件)については、養子となるべき者の本国法を準拠法とする。

 本件では、養親となろうとする男性と、養子となる未成年者が、それぞれ重国籍者であったので、その本国法を確定する必要がありました。

 男性ーニュージーランド他1国の国籍あり・両国いずれにも常居所を認められない
 →ニュージーランドと上記他国における居住歴や、訪問歴等に鑑み、最密接関係国をニュージーランドと認定
 →男性の本国法はニュージーランド法→養子縁組の実質的成立要件はニュージーランド法で判断

 未成年者ー日本国籍あり→未成年者の本国法は日本法
 →養子縁組において日本法上の保護要件を満たす必要がある。

 さて、ニュージーランド法では、養子縁組には、実親と養子との関係を断絶・終了させる効果があります。日本法でいうところの特別養子縁組です。すなわち、ニュージーランドには、日本法でいうところの普通養子縁組がありません。
 裁判所は、配偶者の一方の本国法上、断絶型の養子縁組の定めしかない場合であっても、他方配偶者の本国法上、非断絶型の養子縁組が認められるときは、その夫婦は非断絶型の養子縁組ができるとの解釈を展開し、実母が男性との夫婦共同縁組にて普通養子縁組を申し立てている本件では、男性に対しても、その成立する養子縁組を非断絶型にとどまるものとし、よって、日本法上の保護要件としては、普通養子縁組に則したものの充足が必要になると考えました。

 その上で、実質的成立要件は、ニュージーランド法によって、具体的に判断していきます。
 なお、この点においては、単に外国法の解釈をするだけにとどまらず、異なる制度を有する本邦において、当該外国法上の解釈を如何に反映させていくか、という点が非常に重要になります。

 まず、ニュージーランド法では、必要に応じ、裁判所が、実父の同意を要件にすることができるとされていますが、本件で成立する養子縁組が非断絶型にとどまることに鑑み、実父の同意を要件とする必要はないと判断しています。

 次に、ニュージーランド法では、養子縁組命令の発令に際し、ソーシャルワーカーの報告書の提出を要するとされている点については、これを手続規定と解して本件への適用を回避するとともに、仮に適用があるとしても、本件では家庭裁判所調査官の調査報告書をもって代えることができると判断しています。家庭裁判所の手続においてソーシャルワーカーの報告書の提出は浸透していませんから、妥当かつ合理的な判断と言えるのではないでしょうか。

 さらに、ニュージーランド法では、養子縁組は裁判所のする養子縁組命令により成立するとされていますが、これは家庭裁判所のする養子縁組許可の審判をもって代えることができるとしました。
 両国において、全く同じ手続が採用されているのではない以上、かような読替えが絶対に必要となってくるのですね。

 結果の妥当性にも則した、大変緻密な判断・認定だったのではないでしょうか。